データベース集計好きの解析下手の日本人
         「コンジョイント分析に学ぶ」


はじめに

 マーケティングに商品ニーズや消費者の嗜好を探るために、アンケート調査は不可欠な存在であるが、問題はアンケート調査が集計の域を超えないことにある。
 アンケートデータ数の多い少ないといった問題ではなく、問題は結論にマーケティングを実施する企業が問題点解決のために「何」を知りたいか、また、売れる商品開発では「何」が不可欠かを認識するためのアンケート設計とアンケートデータ集計の解析にある。
 パーセント(%)だけを結果として捉えることに大いに疑問をもっていただきたい。解析に興味をもっていただくために、表題にある「コンジョイント分析」の薀蓄をダラダラ説明することは避ける。
  以下は、経済産業省の旗振りによって、各都道府県の中小企業者にたいして、地域の埋もれた資源活用から地方の再生をテーマに背策した補助事業で「コンジョイント分析」を活用した事例から、この分析
手法の説明を進めたい。
 この事業で「コンジョイント分析」を活用した企業は、徳島県に所在する有限会社マイスター社で、
本来の事業は食料品加工業と宅配弁当業を主とした企業である。 この企業と徳島県立小松島西高校
商業科の「起業」を旨とする模擬会社とのコラボレーションにより商品作りから販売を試みた。

 この有限会社マイスター社では、スィーツブームにあやかり食料品メーカー・飲食店からの注文によりシャーベット・アイスクリームなどのオーダーを小さいロットで受注していた経緯があった。
 今回の補助事業応募に際し、徳島県産サツマイモの鳴門金時とおからをベースにアイスクリームの製造と販売の活路開拓を試みるものである。
 この鳴門金時は、青物市場では美味しいともてはやされ国内市場においても高値がつく商品である。
 サツマイモの植物繊維と豊富に含むビタミン類とおからのもつ
大豆イソフラボンなど不溶性食物繊維
やオリゴ糖をアイスクリームと組み合わせ安心・安全を美味しく食べることをコンセプトとして開発製造し販売を計画した。
 全国展開!TOKUSHIMA雪花菜(おから)アイスクリーム!
            
 『わが社の一押し』

           

   
 
  /20日〜23日に東京ビックサイトにて展示・試食終了後、全国の色々な方々に試食いただき反響の手ごたえを
感じています。来館いただいたお客様に感謝!



 
 商品の開発コンセプトは非常に納得できるものであるが、果たして売れる商品にするには、具体的に
どのような点にポイントを置くかを明らかにするために「コンジョイント分析」を活用した。

 美味しい商品であることは議論が収まらないところであるが、では、売れる美味しい商品とはどのようなレシピでどの程度の販売価格でどの程度の容量で販売するのか。
 また、どのようなパッケージデザインが対象とするターゲットに受けいれられるものか。
 今回の分析テーマは、売り手の経験的な過去データにとらわれないで、エンドユーザーの購買決定に
いたる曖昧な意思決定を数量化し具現化しようとするものである。


 1.分析アンケート設計はどのようにして
 内部的な議論で意思統一したことは、モニターにサンプルを食べた結果の評価をアンケートにする
のではなく食べてみたい商品の評価をアンケート票に実施することにした。

 モニターは、健康を意識しだす40代を中心とした主婦層とした。
 
また、このモニターは直接的な購買ターゲットでもある。
 購入して食べてみたい商品の評価を得るための確認項目として、@商品の効用等成分Aおからの
存在感B果肉の大きさC果肉の色彩Dアイスクリームの甘さEアイスクリームの濃厚の程度F容量
G購入価格の
8項目が導き出された。この8項目を全てアンケートにすると、4374通り(3×3×3×3×3×3×2×3)の組み合わせになる。

  「表−1:おからアイスクリーム鳴門金時アンケート要因表」
         

 現実の問題として、4374通りの商品要因の組み合わせをアンケートにて実施できない。
 このような調査に「コンジョイント分析」が活用できる。
 4374通りの組み合わせを統計学では、18通りに集約でき現実的なアンケート調査が可能になる。
 統計学に解析はコンサルタント業の重要なツールといえる。未知の数値や確率など予測を理論的に数量化してくれる。その数値をベースに議論の展開やクライアントの指導ツールに応用できる。
 統計学では、一般的に解析する際に説明変数と目的変数という言語を日常的に使う。
 下記のアンケート表では、「高感度」として表現している“購入する”か“購入しない”を目的変数としている。目的変数は、アンケートのテーマとする項目です。
 商品購入の意思決定に、どの項目の比重が高いときに商品を購入するかを説明変数と言います。下記のアンケート表では、アイスクリームの@成分・配合表示からGの金額までの8項目を説明変数と言います。

    「表−2:おからアイスクリーム鳴門金時コンジョイント分析アンケート票」
    

 統計学を応用するアンケートでは、アンケート設計の時点に“何を”とする目的を明確にすることが求められます。また、その評価を7段階にすると回答の精度も上がることは、多くの事例からも明らかです。解析結果からは、結論にいたる購入の意思決定要因の強弱の比重が数値的に表示されることが利点です。当然のことながら、机上の結果を基に、最終的には3品程度を試作し試食として検証する。
 この事例は、食品であるがアンケート設計内容を変えれば、様々な商品に応用が可能である。
 例えば、新築マンションであれば“販売価格”“占有面積”“駅からの徒歩時間”“沿線”“駐車場の有無”“間取り”“階数”“施工会社の信頼度”“ローンの特典”等を説明変数に設計する。
 テーマとする目的変数を“購入したい”としないで“購入を検討できる・購入を検討できない”に設計する。答えは、“販売価格”が大きな比重を持つことは明らかであるが、その比重とする数値が明確でないと解析と言えない。
 ターゲットとする年齢・所得層・家族構成を絞り込んだアンケートとであれば解析精度も信頼できる。
 小売店主または企業オーナーの方々とヒヤリングをした際に、事例がヒヤリングした方々の業種で無い場合、「当店とは違う。 当方の業種とは違う。」ということをよく言われます。
 事例に、「あなたのお店と同じものはない。」と説明するのですが、まったく理解できないようです。
 今、問題になっている小学生をはじめとする学校教育現場で言う「応用力」の低さは、大人から始まっているのではないか。

 2.解析の結果は
 解析結果は、以下の表に抜粋をまとめたが馴染のない数値の羅列であることから理解しがたいので噛み砕いて説明したい。
 まず、おからアイスクリームといえおからの存在感のある味はいやで可能なかぎり@おからを感じない味にして欲しい。そして、A販売価格は安いほうがよく230円で販売してほしい。さらに、果肉はペースト状でなくB大きな果肉で果肉の存在ははっきりしたほうがよい。今の時代背景からして健康・安心というもののアイスクリーム自体はC濃厚にしてほしい。最後にアイスクリームのD成分表示ははっきり記載する方がよい。
 @〜Dの順番は、商品購入を決定する要因の順番となっている。
 F値が大きい項目ほど、重要性が大きいと理解してください。解析結果では、「B3:おからの存在がはっきりわかる」が大きい数値を示しています。
 また、P値は「0.0000」を示しているのは、データの信頼性が高いことを示しています。
   「表−3:解析結果」

     

 また、解析の精度を表すR2’0.96421.0に近くかなり高い精度となっている。
 実績値と理論値の比較グラフについても、ほとんどのぶれも無い。
   

 先の説明では5項目の評価をしたが、本来は8項目あったはずと考える方もいらっしゃると思う。
 答えは、残りの3項目は「どうでもいい」項目としてアンケート回答からシステムが自動的に除かれる小さい係数の関係性が低い要因と理解してください。
 想像の域を超えないが、甘くないアイスクリームはアイスクリームとしての存在がない、容量については、さほど気にしていないのかグラム数のイメージがもてないのかが疑問であるが、他の項目は明確に数量化されていることから特に難しく考える必要が無いように判断される。
 ただ、同様に野いちごを果肉にした場合には、アイスクリーム全体の容量グラム数は多いほうが良いとする回答がでているが、ただし、0.1程度の低い係数であることから神経質に気に留める項目で無いように判断するべきであろう。

 3.テスト販売によるマーケティングの結果
 消費者は、おから成分とサツマイモ成分を混ぜ合わしたアイスクリームは、イメージとして健康や美容に良いものと認識するが、いざ、購入となれば、その意思決定は、1.おからの食感がないもの2.価格帯は比較的安価で購入しよい価格設定3.サツマイモは多く入れてほしい4.アイスクリームだから濃厚なクリーム感を5.大豆イソフラボンなど商品の成分を明確に表示することが数値で明らかになった。
 解析を実施しない以前、商品試食によるアンケートを実施した経緯があった。
 この時の回答は、美味しいが65%・普通32%・まずい13%の実に抽象的な数値である。
 今回の解析結果から、おからはパウダー状にして、サツマイモをペースト状とカット状態のものを混ぜ合わせ脂肪分を高め、再度、試食によるアンケートを実施すると、美味しいが87%・普通15%・まずい8%の結果になった。
 本年2月の実施した東京ビックサイトで開催した展示会では、数社からの引き合いがあり、3月時点で3社に納品をはじめることとなった。 さらに、ネットでの販売を希望する企業も5社となった。
 最後に、アンケートはマーケティングには必要不可欠な手法であるが、問題はその解析手法によるのである。